前回のあらすじ
ロカベンを使って新規事業のアイデアを整理した田中社長。
「人が集まり、挑戦が生まれる場を作る」という構想から、
新たにコワーキングスペース事業を立ち上げることに。
しかし、「誰の」「どんな課題を解決する場にするのか」が定まらない。
社長の勢いとは裏腹に、企画は早くも迷走の予感を漂わせていた——
第1章:ターゲット不明のまま、暴走開始
会議室。
白板の中央には、大きく「コワーキング構想」と書かれている。

田中「凛子くん! もう内装業者に見積りを取っておいたぞ!」
凛子「えっ、もう!? まだ“誰が使うのか”も決まってませんよ!?」
田中「使う人? フリーランスとか、学生とか、まあ誰でも来てくれたらいいじゃないか!」
凛子「……“誰でもいい”ほど難しいマーケティングはありません。」
社長は満足げにコーヒーを啜った。
凛子は思わずため息をつき、鈴木税理士にSOSを送る。
鈴木「ふむ。どうやら“STP分析”の出番のようですね。」
田中「STP? なんだそれは?」
鈴木「マーケティングの基本です。
S=セグメンテーション(市場の分割)
T=ターゲティング(狙う層の選定)
P=ポジショニング(価値の位置づけ)
この3つで、“誰に・何を・どう伝えるか”を整理します。」
凛子「つまり、“来てほしい人”を具体的に決めるということですね。」
鈴木「そう。『誰のためのコワーキングか?』が明確でないと、方向性が定まりません。」
第2章:顧客を分けてみる(S=セグメンテーション)
凛子はホワイトボードに「利用者のタイプ」と書き出した。
凛子「①在宅勤務で集中できない人
②フリーランス・個人事業主
③副業や起業準備中の会社員
④学生・地域住民」
鈴木「いいですね。ここまでは“属性”による分け方。
ただ、もう一段掘り下げて、“目的”で分けてみましょう。」
凛子「目的?」
鈴木「たとえば──
・“集中して作業したい”人
・“交流して刺激を得たい”人
・“事業のヒントを得たい”人
・“家以外の居場所が欲しい”人。
同じコワーキング利用者でも、求める価値が全く違うんです。」

凛子「なるほど。“属性”ではなく、“何を得たいか”で分ける。」
鈴木「そう。“ドリルを売るなら穴を売れ”という言葉がありますね。
お客様が欲しいのはドリルではなく、“穴=成果”なんです。」
田中「つまり、うちは“机やWi-Fi”を売るんじゃなくて、
“仕事がはかどる”“人と出会える”という“成果”を売るってことか。」
鈴木「まさにその通りです。」
第3章:誰に向ける?(T=ターゲティング)
凛子はノートPCを開き、地域の統計データを映し出した。

凛子「このエリア、30代〜40代のリモート勤務者が急増しています。
在宅ワークに慣れているけど、“人とのつながり”を求めている層が多いみたいです。」
鈴木「それは有望ですね。“仕事はできるが孤独を感じている人”。
この層は“環境の変化”に価値を感じやすい。」
田中「ふむ……“孤独なリモートワーカー”か。
確かに、家じゃ集中できないし、カフェはうるさい。」
凛子「そういう人たちに、“快適な集中環境+交流”を提供する……。」
鈴木「その通り。ただし、まだ“他との差”が見えていません。
それが次のP=ポジショニングです。」
第4章:他との違いをどう作る?(P=ポジショニング)
鈴木「コワーキングは全国にたくさんあります。
なぜ“他ではなく、うちを選ぶのか”を明確にしましょう。」
凛子はボードに3つの選択肢を書いた。

鈴木「この比較を見ると、“環境+人との関係性”を両立できる場に価値がありますね。」
凛子「“働く”だけでなく、“学び”や“相談”ができる場所……。」
田中「おお、それいいな。
“作業だけで終わらないコワーキング”ってことか。」
鈴木「ええ。いわば“成果が出るコミュニティ”です。
この方向性を深めれば、他との差別化になります。」
凛子「ただ、“誰がその支援をするのか”は課題ですね。
運営側の知見や人材も必要です。」
鈴木「まさに。そこが次の検討ポイントです。
“運営の強み”をどう作るか──ここからが経営戦略の本番です。」

第5章:見えてきた仮説
凛子はホワイトボードを見つめながら、静かにメモを取った。
・顧客は「一人で頑張るリモートワーカー」
・彼らの課題は「孤独・相談相手がいない・成果が出ない」
・価値提供は「人と学びを通じて、前に進める場」
・差別化の方向性は「成果にフォーカスした運営」
田中「うん、いい感じだ。
単なる“作業場”じゃなく、“前に進むための拠点”か。」
鈴木「あとは、“その成果をどう支援するか”を考える段階ですね。」
凛子「(“成果を支援する仕組み”……誰がその相談に乗るのか。
ここに専門家が関われば、もっと深い価値を出せるかも)」
第6章:新たな視点の予感
鈴木「ここまでの分析で、“顧客の姿”と“価値の方向性”は見えました。
ただし、“他にはない強み”がまだ弱い。
次は競合分析で、“何が代替され、何が代替されないか”を見極めましょう。」
田中「了解! つまり次は“他社を調べる”ってことだな!」
凛子「はい。そして、その中で“自分たちが本当に提供できる価値”を見つける。
(……きっと、その答えの中に、“専門家の知見”が生きる余地がある)」

今回の学びポイント
鈴木税理士のまとめ講義
STP分析は、“誰に・何を・どう届けるか”を明確にするための基本手法です。
S:セグメンテーション…顧客を「属性」ではなく「目的・課題」で区分する T:ターゲティング…自社が支援できる層を絞り込む
P:ポジショニング…「他ではダメな理由」を言語化する
ロカベンの6視点のうち、今回は「顧客・市場」にあたる部分。
新規事業では、まず“誰の課題を解くのか”を明確にすることがすべての出発点です。
次回予告
第3話:「競合の壁!差別化のヒントは顧客の声にあり」
顧客像は見えてきたものの、“他社との差別化”が見えない凛子。
社長とともに競合調査に出かけた先で出会ったのは、
現場の声を拾う明るい若手社員・柚木遥。
彼女が聞き出した利用者の“本音”が、事業の方向性を変える——。
(第2話・完)
