前回のあらすじ
支援型コワーキングの方向性が見えた田中社長たち。VRIO分析によって、「人こそ最大の経営資源」であることに気づき、”現場理解力”と”寄り添う文化”を武器に事業を形にし始めた。
しかし、立ち上げ準備が進むにつれ、チームの中で微妙な温度差が生まれ始める。理念──会社の”軸”が問われる時が来た。
第1章:すれ違うチーム
金曜日の午後。オフィスの会議室にはいつものメンバーが集まっていたが、空気がどこかぎこちない。ホワイトボードには「オープンイベント企画案」と書かれた資料が並んでいる。
三浦「イベントで”集客効果”を出すなら、有名インフルエンサー呼びましょう!フォロワー10万人以上の人にSNSで拡散してもらえば、一気に認知度が上がります!」
三浦の提案に対して、柚木が困惑した表情を見せた。
柚木「でもそれだと”コミュニティ”感が薄れちゃうんじゃない?”挑戦者が安心して相談できる場”を作るのが目的じゃ……」
田中が手を叩いて割って入った。
田中「数字を出すのも大事だ。事業なんだから採算を取らなきゃな。初期投資も回収しないといけないし。」
凛子は違和感を覚えた。みんな正しいことを言っているのに、なぜかバラバラに感じる。
凛子「でも、目的が”収益”だけになったら、理念がブレませんか?」
その瞬間、会議室に重い沈黙が降りた。誰もが正しいことを言っている。だが、ベクトルが少しずつ違っていた。

凛子は心の奥で呟いた。(これじゃあ、チームが空中分解してしまう)
第2章:理念の不在に気づく
会議が終わった後、凛子は一人会議室に残った。ホワイトボードには、バラバラな方向を向いた矢印が描かれている。
凛子(私たちは何のために、コワーキングをやるんだろう?)
頭の中で鈴木税理士の言葉がよみがえる。──「理念は、意思決定の軸です」。
そうか、私たちには軸がない。だからみんなが違う方向を向いてしまう。
その日の夕方、凛子は鈴木に相談のメッセージを送った。
「チームの方向性が合わなくなってきました。どうすればいいでしょうか?」
返信は思いのほか早く来た。
鈴木「いい気づきですね。では一度、”理念の棚卸し”をしてみましょう。明日、時間を作ってください。」
凛子の胸に、かすかな希望の光が宿った。
第3章:MVVとゴールデンサークル
翌日の土曜日。普段は静かなオフィスに、メンバー全員が集まった。鈴木はホワイトボードに3つの英単語を書いた。
Mission(使命)
Vision(未来像)
Value(価値観)
鈴木「これが”MVV”。会社が”なぜ存在するのか”を言語化するフレームワークです。」
凛子「Missionが”何のために”、Visionが”どんな未来を”、Valueが”どういう姿勢で”、ですよね?」
鈴木「その通り。そしてもう一つ、Golden Circleという考え方もあります。”Why(なぜ)→How(どうやって)→What(何を)”の順で考えるんです。」
鈴木は3重の円を描いた。内側から「WHY」「HOW」「WHAT」と書き込む。

鈴木「多くの会社は”何をやるか(What)”から始めてしまう。でも大事なのは、”なぜやるのか(Why)”。理念があれば、社員の判断が一致し、顧客に一貫性が伝わります。」
凛子の目に光が宿った。
凛子「なるほど……。私たちは”何を”ばかり議論して、”なぜ”を置き去りにしていたんですね。」
三浦が手を挙げた。
三浦「でも、自分の”Why”って、どうやって見つけるんですか?」
鈴木「まずは、それぞれの想いを聞かせてください。なぜ、この事業に関わりたいと思ったのですか?」
第4章:それぞれの”Why”
田中が最初に口を開いた。
田中「俺のWhyは、”地域に挑戦者を増やしたい”だ。新しい事業を生む人が増えれば、街が元気になる。自分も昔、誰にも相談できずに悩んだ時期があったからな。」
凛子は田中の意外な一面を見た気がした。社長にも、そんな時期があったのね。

凛子「私は、”誰かの背中を押す存在になりたい”です。前に進みたい人の”安心できる場所”を作りたい。一歩踏み出す勇気をサポートしたいんです。」
三浦が続いた。
三浦「僕は、”自分のスキルが誰かの役に立つ瞬間”を増やしたい。データ分析って、一人でやってても面白くないんです。でも、誰かの決断に役立つ時、本当にやりがいを感じます。」
柚木の目が潤んでいた。
柚木「私は、”人の笑顔が生まれる瞬間”が好き。イベントも、相談会も、そこが原点です。誰かが『ありがとう』って言ってくれる時、この仕事をやってて良かったって思います。」
しばし沈黙のあと、鈴木が温かい笑みを浮かべた。
鈴木「いいですね。これが御社の理念の芽です。”挑戦者を支え、地域を元気にする”。それが”Why”。”ヒアリング文化で寄り添う”が”How”。”成果が出るコワーキング”が”What”。」
凛子の胸に、温かいものが流れた。
凛子「……全部がつながった気がします。みんなの想いが一つの理念に収束している。」
第5章:理念を”経営の地図”に
鈴木「理念が定まると、事業の判断基準が明確になります。ロカベンの5つ目の視点”理念”は、経営資源やビジネスモデルを一本の軸で貫く要なんです。」
田中が手を叩いた。
田中「たしかに、”儲かるかどうか”より”理念に合うか”で判断できるようになった。インフルエンサーの件も、地域の挑戦者支援という理念に合うかどうかで考えればいいんだな。」
三浦も納得した表情を見せた。
三浦「データ分析も、単なる数字追求じゃなくて、挑戦者の成長を支援するためのツールとして使えばいいんですね。」
柚木が嬉しそうに言った。
柚木「イベントも、集客だけじゃなくて、参加者同士のつながりや成長を重視すればいいんだ。」
凛子「理念って、”心”だけじゃなく、”戦略の基準”なんですね。」
鈴木「その通り。理念があるからこそ、社員が同じ方向を向ける。そして、顧客もその想いに共感する。理念は最強の差別化要素でもあるんです。」

第6章:理念から生まれる新たな可能性
会議室のホワイトボードには、今や整然とした図が描かれていた。
【私たちの理念】
Mission:挑戦者の背中を押し、地域を元気にする
Vision:誰もが安心して挑戦できる社会
Value:現場に寄り添い、成果まで伴走する
凛子はこの図を見つめながら、新たな発見をしていた。
凛子「この理念があれば、外部パートナーとの連携も見えてきますね。同じ想いを持つ専門家や企業との協力関係を築けそうです。」
鈴木「素晴らしい気づきです。理念は社内だけでなく、社外との”共感の輪”も作ります。」
田中の表情が明るくなった。
田中「なるほど、税理士の鈴木先生も、商工会の人たちも、みんな”地域の挑戦者を支援したい”という想いは同じかもしれないな。」
三浦「それなら、連携する理由も明確になりますね。お互いの専門性を活かして、より大きな価値を提供できる。」
柚木「理念でつながったチームって、きっと強いですよね。」

第7章:理念がつなぐ、次の展開
会議の後、凛子は窓の外の街を見つめた。行き交う人々──そこに、まだ出会っていない”挑戦者”たちがいる。
凛子(理念を軸にすれば、社外とも”共感”でつながれる気がする。その輪の中に、きっと専門家や地域のパートナーもいるはず)
鈴木が凛子の隣に立った。
鈴木「理念は”灯台”です。次はその灯をもとに、連携の形=ビジネスモデルを描きましょう。」
田中も合流した。
田中「よし、いよいよ事業の最終設計だな。今度は理念がブレることはない。」
凛子は確信を込めて頷いた。
凛子(この理念があれば、どんな連携もブレずに進める。私たちの挑戦は、いよいよ最終段階に入る)
第8章:チーム再生の瞬間
その日の夕方、メンバー全員でささやかな懇親会を開いた。理念が明確になったことで、チームの雰囲気は一変していた。

柚木「今日、本当にスッキリしました。みんなが同じ方向を向いてるって感じられて。」
三浦「僕も、自分の役割が明確になりました。データ分析を通じて、挑戦者の成長をサポートする。」
田中「理念があると、判断に迷わなくなるな。これからは”理念に合うか”で全てを決めよう。」
凛子は温かい気持ちに包まれていた。
凛子「数ヶ月前、社長の突然の思いつきから始まったプロジェクトが、ここまで形になるなんて。」
田中「まだ終わりじゃないぞ。最後のピース──持続可能なビジネスモデルを作らないと。」
凛子の胸に、最後の挑戦への意欲が湧き上がった。理念という軸を得た私たちなら、きっと素晴らしい事業を作り上げられる。
今回の学びポイント
鈴木税理士のまとめ講義
理念(MVV)は、企業の”魂”であり、”意思決定の羅針盤”です。
Mission(使命):なぜ存在するのか
- 社会にどんな価値を提供するのか
- 何のために事業を行うのか
Vision(未来像):どんな社会を実現したいか
- 理想とする未来の姿
- 事業を通じて達成したい社会的インパクト
Value(価値観):どう行動するか
- 日々の業務で大切にする姿勢
- ステークホルダーとの関わり方
Golden Circleの考え方を合わせることで、”Why(なぜ)”を軸にした経営判断が可能になります。
多くの企業が「What(何を)」から始めてしまいますが、「Why(なぜ)」から始めることで:
- チーム内の方向性が統一される
- 意思決定の基準が明確になる
- 顧客や パートナーとの共感が生まれる
- 持続的な競争優位性が築ける
ロカベンの5つ目の視点「理念」は、事業を単なる数字や戦略から、”意味のある挑戦”に変える力を持っています。理念は最強の差別化要素であり、社内外との連携を生み出す磁石のような役割を果たすのです。
次回予告
第6話:「税理士×コワーキングの融合!ロカベンが導く未来」
理念を軸にチームが一つになった矢先、凛子たちは”地域の挑戦者を支援する仕組み”を形にする最終段階へ。そこに現れたのは、意外な提案を携えた鈴木税理士。
「実は、私も一緒にやらせていただきたいんです」
彼の専門知識とロカベンのフレームが、事業を”持続可能なモデル”へと導く。だが、本当にすべてのピースが揃うのか?そして、新規事業は成功への道筋を見つけられるのか?
ついに明かされる、完成形のビジネスモデルとは──
次回、感動のフィナーレ!
(第5話・完)
